サバイバーシップ・バイアスとは? - 「成功者の秘訣」の罠

「ビル・ゲイツは大学中退したのに成功した!」「1日4時間しか寝なくても成功できる!」成功者の物語は溢れていますが、失敗した人の話は見えません。サバイバーシップ・バイアス(Survivorship Bias)は、成功だけを見て失敗を無視する認知バイアスで、誤った助言と無謀な挑戦の元凶です。
定義
サバイバーシップ・バイアスとは、ある選択プロセスを通過した人(サバイバー)だけを見て、脱落した人(非サバイバー)を見ない現象です。
主な特徴
- 成功事例だけが目につく
- 失敗事例は隠される(サバイバー集団の外)
- 誤った因果関係の導出
- 危険な助言の生産
起源:第二次世界大戦の航空機の事例(1943)
サバイバーシップ・バイアスの明確な発見
状況
- 戦時中に帰還した爆撃機の分析
- 爆撃機の機体には弾丸の穴
- 最も多い弾丸の穴の位置:胴体、翼
将軍の提案
- 「胴体と翼を補強しよう!」
- 弾丸の穴が多い場所 = 脆弱な場所
統計学者ワルドの洞察
- 「その逆です。エンジンと操縦席を補強すべきです」
- 理由:爆撃機の機体 = 生還したもの
- 胴体/翼の被弾 → 帰還可能だった
- エンジン/操縦席の被弾 = 墜落(サバイバー集団の外)
- 生還して帰ってきた飛行機だけを観察していた
結果
- エンジン/操縦席の補強
- 生存率が大幅に向上
- サバイバーシップ・バイアスの最初の明確な事例
日常生活におけるサバイバーシップ・バイアス
1. 起業家の成功神話
サバイバーシップ・バイアス
「ビル・ゲイツは大学を中退したのに成功!」
「学歴なしで20億円稼いだ!」
「ビル・ゲイツも大学中退!」
→ 「私も起業すれば成功できる!」
サバイバー集団の外
- 大学中退して起業した人の成功は極めて少数(99%失敗)
- 20億円稼ぐ起業家よりも潰れた起業家が何千倍も
- 大学中退後に失敗した人は何百万人も
事実
- 起業成功率:10%未満
- サバイバーの物語だけが有名になる
- 「自分の状況は違うのに、結果だけを真似る」
2. 「1日4時間しか寝なければ」の神話
サバイバーシップ・バイアス
- ナポレオン:4時間睡眠
- エジソン:4時間睡眠
- イーロン・マスク:週100時間労働
サバイバー 集団の外
- 同じ睡眠パターンで健康を壊した人は何千人も
- 短い睡眠で起業に失敗した人々
- 過労死したCEO
事実
- ほとんどの人にとって4時間睡眠は毒
- 成功した人の中で十分に睡眠を取る人の方がずっと多い
- 100時間働いて潰れた人は何千人も(メディアでは報道されず)
関連概念: 確証バイアス
3. 名門大学卒業
サバイバーシップ・バイアスの例
「財閥の会長は全員有名大学出身!」
大企業CEO10人中9人
パイロット100人中95人
サバイバー集団の外
- 本当に重要なのは、その名門大学に毎年1,000人が入学
- その中で財閥の会長になった人は数えるほど
- 成功した比率は、物語の外の他の学校出身と ほぼ同じ
現実
- 入試競争の罠
- 「卒業さえすれば成功できるのか?」
- 成功確率は2%にも満たない
4. 学歴の神話
サバイバーシップ・バイアス
- SKY出身のCEO、医師、弁護士
- 「学歴が一生を決める」
サバイバー集団の外
- SKY卒業しても平凡な会社員が大半(多くても中間管理職)
- 高卒でより成功した人は何千人も
- 学歴が良くても成功できなかった人々
事実
- 学歴 = 確率上昇(絶対に保証されるものではない)
- 高卒でも成功可能
- 重要なのは学歴ではなく、様々な条件と運
5. 「情熱さえあれば大丈夫」
サバイバーシップ・バイアス
- 情熱で成功した企業
- 「諦めなければ必ず成功する」
サバイバー集団の外
- 情熱があったのに潰れた会社が何百も
- 最後まで諦めずに破産した人々
- 情熱以外に必要な100の条件を無視
事実
- 情熱 + 資本 + 生存力 + 運
- 情熱だけでは不十分
- 失敗から早く学ぶことも重要
なぜ起こるのか?
1. メディアバイアス
成功談は売れ、失敗談は隠される
- 成功ストーリー = クリック、視聴率
- 失敗ストーリー = 憂鬱、面白くない
- メディアは成功だけを強調
2. 確証バイアスとの結合
信じたい物語だけが見える
- 「大学中退でも成功する」→ 信じたい
- 「4時間睡眠でも大丈夫」→ 信じたい
- 反対の事例は目を背ける
関連概念: 確証バイアス