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埋没費用の誤謬とは?すでに使ったお金のせいで続けてしまう心理

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定義

埋没費用の誤謬(Sunk Cost Fallacy)は、すでに投資した時間、お金、努力のせいで損をしながらも続けてしまう非合理的な意思決定のことです。簡単に言えば「ここまで来たのに諦めるのはもったいない」という心理ですね。

例えてみましょう。映画館で映画を観ているのですが、30分経って本当につまらないです。退屈で眠いし、出たいです。でも「1万5千円も払ったのに...」「ここまで来たのに...」と思って最後まで観てしまいます。2時間苦しみながらです。これがまさに埋没費用の誤謬です。すでに払った1万5千円は、観ても観なくても戻ってきません。なのにそのお金のせいで、さらに2時間の時間と幸せを失ってしまうんです。

合理的な決定は「すでに投資したもの」ではなく「これから得られるもの」を基準にすべきです。すでに使ったお金は「埋没費用(Sunk Cost)」と言います。水に沈んで取り戻せない費用という意味です。合理的な人なら埋没費用は無視して「今からこれを続けることは自分にとって得か?」だけを考えるべきです。でも人間は合理的ではありません。すでに投資したものがもったいなくて、損をし続けるんです。

特徴

  • 過去に執着します - 「すでにどれだけ投資したか」に注目し、「これからどれだけ必要か」はあまり重視しません。過去は変えられないのに、過去のせいで未来を台無しにしてしまうんです
  • 損失回避と繋がります - 人間は利得よりも損失に敏感です。「10万円儲ける」よりも「10万円失う」のほうが2倍苦しいです。だから「すでに投資したものを失った」と認めたくなくて、投資を続けてしまうんです
  • 自我と繋がります - 「諦める」ということは「自分の選択が間違っていた」と認めることです。プライドが傷つきますね。だから続けるんです。「自分が間違っていた」と認めるよりも損をするほうが楽なんです
  • 投資が大きいほど強くなります - 1万円投資したものは簡単に諦められますが、1億円投資したものは諦めるのが本当に難しいです。投資が大きければ大きいほど、埋没費用の誤謬に深く嵌まります
  • 他人の目も影響します - 他の人が見ていると「諦める人」「失敗者」に見られたくなくて、さらに続けてしまいます。「見返してやる」ってね

例1: 恋愛関係 3年間付き合った恋人がいます。最近はよく喧嘩するし、価値観も合わないし、会うと気まずいです。「別れるべきかな?」と思いますが、「3年も付き合ったのに...」「今まで投資した時間がもったいない...」と思って付き合い続けます。でも3年がもったいないからって、これから10年不幸に過ごす理由はありません。すでに投資した3年は戻ってきません。大事なのは「今からこの関係が自分を幸せにするか?」です。答えが「いいえ」なら、過去の3年よりも未来の10年を選ぶべきなんです。

例2: 大学の専攻 法学部に通っているのですが、法律の勉強がまったく合いません。やりたくないし、成績も出ません。実はデザインに興味があります。でも「2年も通ったのに」「両親が失望するだろう」「学費がもったいない」と思って通い続けます。結局卒業はしますが法曹にもなれず、またデザイン学院に通います。2年がもったいなくて4年をさらに無駄にし、結局やりたかったことを遅く始めることになったんです。2年生の時に転科したり再入学していたら、もっと早く幸せな道を見つけられたでしょう。

例3: 事業投資 友達がチキン店を創業するのに1億円を投資しました。6ヶ月経って商売がうまくいきません。毎月赤字です。専門家が見ても立地が悪く、競争が激しく、回復の可能性が低いです。こういう時は早く整理するのが合理的です。でも「1億を投資したのに」「このまま諦めたら全部飛ぶじゃないか」と思って、お金を注ぎ続けます。インテリアを変えて、広告して、メニューを変えて... 結局2年間で3億を使って閉店します。最初の6ヶ月で整理していたら1億2千万程度の損失だったのに、1億がもったいなくて3億を飛ばしたんです。

例4: オンラインゲーム ゲームに3年間、500万円課金しました。キャラクターを育てて、アイテムを買って、時間もすごく投資しました。でももうゲームが楽しくないです。もうやりたくないです。でも「500万円も使ったのに」「ここまで育てたのに」と思って続けます。義務感でログインして、楽しくないのにイベントに参加して... 実はそのお金と時間はもう使ったものです。ゲームを続けても戻ってきません。大事なのは「今このゲームが自分を幸せにするか?」です。答えが「いいえ」ならやめるべきなんです。

例5: 車の修理 10年経った中古車が故障しました。修理費が300万円だそうです。中古市場価格は400万円です。合理的に考えれば修理するのが得です。でもこの車にすでに修理費として500万円を使いました。「また修理? この車にもうどれだけ注ぎ込んだと思ってるんだ!」と腹が立ちます。でもすでに使った500万円は今の決定とは無関係です。大事なのは「今300万円を払えば400万円の車を使える」ということです。合理的には修理が正しいのに、過去に使ったお金のせいで、より高い選択(新車購入)をしてしまうんです。

克服方法

埋没費用の誤謬から抜け出す方法を見てみましょう。

ステップ1: 埋没費用を認識する まず何が埋没費用かを区別してください。すでに使ったお金、すでに過ごした時間、すでにかけた努力... こういうものは取り戻せません。いくらもったいなくて悔しくても戻ってきません。「すでに投資したもの」は埋没費用です。

ステップ2: ゼロベースで考える 「もし今初めて始めるならこれをするか?」と自問してください。例えば映画館で「もし今無料でこの映画を観る機会があったら観るか?」恋愛で「もし今日初めて会った人なら付き合いたいか?」事業で「もし今新しく始めるならこの事業をするか?」答えが「いいえ」ならやめるべきです。

ステップ3: 未来に集中する 過去ではなく未来を見てください。「ここまで来たのに」ではなく「ここからどこへ行こうか」を考えてください。意思決定の基準は「これから得られる利益」であるべきです。「すでに使った費用」ではなくね。

ステップ4: 感情と事実を分離する 「もったいない感じ」と「実際の損失」は違います。「1億がもったいない」という感情は理解できますが、その感情のせいで2億をさらに飛ばす理由はありません。感情は認めても、決定は事実と数字を基準にしてください。

ステップ5: 機会費用を計算する これを続けながら失うものは何でしょうか? つまらない映画を観る2時間に友達に会ったり、本を読んだり、散歩したりできます。合わない専攻を続ける4年に好きな分野で専門家になれます。失敗した事業に執着する時間に新しい機会を見つけられます。機会費用を考えると諦めるのが楽になります。

ステップ6: 他人の観点を借りる 友達が同じ状況だったら何とアドバイスしますか? 「出てきなよ。映画つまらないじゃん」「その人と別れなよ。不幸そうだよ」って言いませんか? 自分の問題は感情的に見ますが、他人の問題は客観的に見ます。自分の状況を他人の問題のように見てください。

ステップ7: 小さく実験する 完全に諦めるのが難しいなら、小さく実験してみてください。1ヶ月間ゲームをやめる、2ヶ月間会わない、事業への新規投資を中断する... こうやって小さなステップで試してみると「あ? なくても大丈夫だね」または「やっぱり必要だね」と確認できます。

ステップ8: 限界線を決める 「ここまでだけもう投資して、うまくいかなければやめる」という明確な基準を事前に決めてください。例えば「3ヶ月やってみて売上が損益分岐点を超えなければ整理する」「6ヶ月会ってみてまだ不幸ならば別れる」というふうに。感情ではなく数字と時間で基準を立てれば、決定が楽になります。

ステップ9: 失敗を学習として再定義する 「諦める」= 「失敗」ではありません。「学んだ」「方向を変えた」「より良い選択をした」と考えてください。シリコンバレーでは「Fail Fast, Learn Fast(早く失敗して早く学べ)」と言います。諦めることは失敗ではなく賢明な選択です。

ステップ10: 専門家や第三者の意見を聞く 一人で決めるのが難しければ専門家に聞いてみてください。ファイナンシャルアドバイザー、キャリアコーチ、心理カウンセラー... 彼らは感情的に絡まっていないので、客観的にアドバイスできます。親しい友達や家族もいいです。「私が深く嵌まりすぎてないかな?」と聞いてみてください。

影響

肯定的な側面

  • 粘り強さを維持します - すべての諦めがいいわけではありません。難しい時に簡単に諦めれば成功できません。埋没費用の誤謬はある程度の粘り強さと忍耐を作り出します。「ここまで来たのに」という気持ちが最後の難関を越えさせることもあります
  • 関係を維持します - 友達や恋人と一度喧嘩したからってすぐ関係を切ったら人間関係が維持できません。「私たちこれだけ一緒にいたのに」という気持ちが関係を回復させることもあります
  • 長期的な目標を追求します - 短期的に大変でも「ここまで投資したからもう少し」という気持ちが目標達成に役立つこともあります

否定的な側面

  • お金と時間を浪費します - すでに使ったお金がもったいなくてより多くのお金を失います。すでに過ごした時間がもったいなくてさらに多くの時間を無駄にします。損失が雪だるまのように大きくなります
  • 機会費用を失います - 失敗したプロジェクトに執着するあまり新しい機会を逃します。「すでに投資したもの」を守ろうとして「これから得られるもの」を諦めてしまうんです
  • ストレスと不幸 - 楽しくないこと、合わないことを無理やり続けるから不幸になります。毎日ストレスを受け、意欲もなく、生活の質が落ちます
  • 悪い決定を正当化します - 「ここまで投資したから続けなきゃ」という論理で明らかに間違った決定を続けます。失敗を認められず、より大きな失敗に陥ります
  • 企業と国家政策の失敗 - 大型プロジェクト(例: 道路建設、ITシステム)が明らかに失敗なのに「すでに数百億投資したから」と続けます。結局数千億を無駄にすることになります

FAQ

Q: 埋没費用の誤謬と粘り強さの違いは何ですか? A: 本当に重要な質問ですね。両者の違いは「未来の見通し」にあります。粘り強さは「今は大変だけどこれから良くなる」という合理的な期待がある時です。創業初期に赤字でも市場分析上これから成長しそうなら粘り強く続けるのが正しいです。一方、埋没費用の誤謬は「これからもうまくいかなそうだけどすでに投資したから」続けることです。見分ける方法はこれです: 1) 客観的なデータは何と言っていますか? 専門家、市場調査、数字が「可能性がある」と言えば粘り強さ、「無理だ」と言えば誤謬。2) 最初からやり直すならやりますか? 「それでもやる」なら粘り強さ、「絶対やらない」なら誤謬。3) 感情を抜いたら? 希望ではなく現実的な根拠があれば粘り強さ、根拠なく「もったいないから」だけで続けるなら誤謬。

Q: すでに投資したものが大きすぎて諦められません。どうすればいいですか? A: 投資が大きいほど諦めるのが難しいのは当然です。でもこう考えてみてください。すでに1億を失いました。選択肢は2つです: 1) 今やめて1億の損失で終わらせる、2) 続けて3億をさらに失う。どちらがいいですか? 1億も大金ですが、3億はもっと大金です。「すでに多く失ったからこれ以上失わないようにしよう」が合理的です。「すでに多く失ったからさらに投資して取り戻そう」はギャンブラーの論理です。カジノで100万円を失った人が「100万円がもったいなくて200万円をさらに賭けて結局300万円失った」という話、多いじゃないですか。同じ原理です。それにすでに投資したものを完全に捨てるわけではありません。その経験から学んだこと、出会った人、得た教訓は残ります。それで次にもっと良い選択ができます。

Q: 他の人が「簡単に諦める」「意志が弱い」と言うか心配です。 A: 他人の視線が埋没費用の誤謬を強化する大きな要因です。でも考えてみてください。その人たちがあなたの人生の責任を負いますか? 彼らがあなたが失ったお金を補償してくれますか? 違いますよね。あなたの人生はあなたのものです。他人の評価よりもあなたの幸せが大事です。それに実際には人々があなたが思うほど気にしません。みんな自分のことで忙しいです。あなたがどんな選択をしたか1年後に覚えている人はあまりいません。むしろ賢く方向を変えた人を尊敬する場合が多いです。「早く決断を下すね」「勇気があるね」ってね。それに本当にあなたを大切に思う人はあなたが不幸なのを見るのがもっと嫌です。「諦める」と批判せず「よく決断した」と応援してくれるでしょう。

Q: 埋没費用の誤謬を利用して人を操作できますか? A: 残念ながら多く利用されています。代表的なのが「段階的コミットメント(Foot-in-the-door)」という説得技法です。最初に小さな要求をして承諾を得て、その次にだんだん大きな要求をします。「すでにここまでやったのに」と思って拒否しにくくするんです。例えば: 1) カルトや詐欺組織が最初は無料講演、次に安い入門コース、その次に高い正規コース... というふうに段階的に投資させます。2) 不良な販売者が契約金を先に受け取って、後で追加費用をどんどん要求します。「すでに契約金払ったのにキャンセルする?」3) 健全でない関係で「私たちこれだけ付き合ったのに」「離婚したら子供たちはどうするの」という言葉で引き止めます。こういう状況を見分ける方法は? 「最初の約束と違う」「追加要求が続く」「出られないようにする」という信号を見せたら注意してください。すでに投資したものがもったいなくても早く抜け出すほうが損失は少ないです。

Q: 会社で失敗したプロジェクトをやめたいのですが、上司が「ここまで来たのに」と言います。 A: 組織では埋没費用の誤謬がもっとひどいです。個人のお金ではなく会社のお金なのでもったいなさを感じず、政治的責任のせいで認めたくなく、複数の人が関与して決定が遅くなります。対処方法は: 1) データで話す - 感情ではなく数字で見せてください。「今まで5億投資、これから3億もっと必要、予想収益2億。続ければ6億の損失」というふうに。2) 代案を提示する - 「やめよう」だけでなく「代わりにこれをすればもっと効率的だ」と代案を提示してください。3) 小さな証拠から - 1ヶ月中断してどうなるかテストしようと提案してください。小さなステップは承認されやすいです。4) 失敗ではなく学習として包装する - 「このプロジェクトは失敗した」ではなく「このプロジェクトから得た教訓を次に活用しよう」と。5) 外部コンサルタント活用 - 内部の人の言葉は聞かなくても、高いお金を払って呼んだ外部専門家の言葉は聞く場合が多いです。それでもダメなら? あなたが決定権者でないなら、できることは限られています。記録を残しておいて(「私はこう意見を述べました」)、失敗時に責任が自分に来ないようにしてください。

Q: 埋没費用の誤謬を完全に避けられますか? A: 完全には難しいです。人間の脳がそう動くように進化したんですから。私たちの祖先にとっては「粘り強さ」「投資したものを守る」が生存に有利でした。一度失敗したからってすぐ諦めたら餓死したでしょう。でも現代社会は違います。選択肢が多く、機会が多く、一つに執着する必要がありません。だから意識的に努力しなければなりません。大事なのは「私は埋没費用の誤謬に陥らない」と自信を持つのではなく「私も陥る可能性があるから気をつけなきゃ」と認識することです。大きな決定を下すたびに「これって埋没費用のせいで続けてるんじゃないか?」と自問してください。それだけでも多くの間違いを防げます。